1234

VOCALOIDと人間のデュエット

- そして、今回、ご自身の VOCALOIDとデュエットをされましたが、どんな気分でしたか?

角元今回、「デュエットする」という話をきいて、「誰とするんだろう?」と思っていたんですね。それで、当日行って「このAKAZAっていうのはどなたなんでしょう」とお伺いをすると「角元さんのVOCALOIDです」と説明を受けまして。それは全部CV角元ということですかというところで驚いたのがまずひとつありますね。
それから、VOCALOIDと人間の声があまりにも違いすぎちゃいけないなというのをレコーディングで心がけていました。
もちろん、私とVOCALOIDで違いは出したいんですけれども、あまりにも差があるとデュエットの意味がないなと。デュエットっていうのはあくまで2人の声があっているのがいいし、ハモリだったらハモリでVOCALOIDのほうにあわせてあげたいなっていう感覚で歌っていたので。曲自体の収録はスムーズで2時間もかからなかったです。
割とその曲自体も4分音符が多く、あまり動く曲ではなかったので、音程を正しく歌うことでしっかりデュエットできたのかな、と。実際に聞いてくださった方からの感想を見ると「どっちが角元さんでどっちがVOCALOIDなのか一瞬わからなかったです」というご意見をいただけて。それはやっぱりAKAZAがそれだけすごいんだなっていう。私の歌癖とかもしっかり受け継いでいますし。

- レコーディングはどんな風に行われたんですか?

角元デュエットのときは別録りで、私単体で歌いました。このときはまだVOCALOIDの音声は入ってなかったんじゃないかな。ただデモの音声は全部VOCALOIDでそのデモを聞いていました。

- 実際に完成した楽曲を聴いてみたときの印象は……。

角元率直に言うと私自身はAKAZAと私自身の声を聞き分けられていたんですね。ですが、「一瞬わからなかった」という感想をいただいたときにびっくりしちゃって。自分の聞いたときの感覚と他の人が聞いたときの感覚が違うのは仕方ないのかもしれないのですが……。

小林AKAZAというのは、ある瞬間の角元さんの魅力を記録して、データベースにしたものだと思うんです。
その瞬間の角元さんの声がサンプリングされているという特徴がありますので、そういう意味で角元さんの、つまりユニティちゃんの歌う雰囲気が出て欲しいというのはあったんですけれども、当然角元さんは生きていらっしゃるし成長するし変わっていくんですね。
当然その2つは違うだろうという意識もあったわけです。
どっちが上とか下とかそういう話ではなくて、同じなんだけどちょっと違うというか、入れ物はちょっと違うけれども魂は同じみたいな。
角元さんが聞いたときに「違うな」っていうのは当然そうだろうなって納得する部分もあるし、みなさんが聞いたときに「どっちだ?」ってなるのも面白いし。

角元AKAZAが歌っているところが「私に似ているな」って思うところもありましたし、私が歌っているところが「ここは人間じゃないと出てこないよな」っていうような音域や、発音の仕方が感じられるようになってきて。これは何度も聞くと印象が変わってくる感じですね。

小林「最終的に2人いる」っていう感じになるんです。これが非常に面白い。

馬場歌声ライブラリのデザインを考える上でも、まさにこの絵の感じをイメージしていました。イメージが重なりあったり、分かれたりする部分があって。重なっているときはユニティちゃんイコール角元さんというイメージもありつつ、でも少し違う部分、もしかしたらそれは表に出てこないユニティちゃんの隠れた部分かもしれないけど両面を持っている・・・そういうイメージでしたね。でも角元さんらしいところはきっちりと押さえて表現したいというのは終始念頭に置いていました。

角元聞いていて、「私にできないことできますよ、この子!」って思いました。

歌声ライブラリ作成にあたってのこだわり

- 今回、歌声ライブラリを作成するにあたって、どういったコンセプトから始まったのでしょうか?

馬場他の歌声ライブラリとの違いを出す意味で、躍動感を持たせたかったということが挙げられます。私たち制作チームがユニティちゃんを初めて見たのはUNITE IN THE SKYのプロモーションビデオだったんですが、ステージ上を歌い踊りながら、所狭しと駆け回るユニティちゃんのイメージが強く印象に残ったからです。そのイメージに相応しい歌声でなければならないし、実現させるために何をすべきか考えた結果、普段の歌声ライブラリ制作ではやらないようなこともいろいろ試させていただきました。

ユニティちゃん Candy Rock Star ライブステージ!

馬場先ほどもご説明しましたとおり、通常の収録作業では単語が列記されている原稿を、声の調子を合わせながら読んでいただくわけですが、角元さんには「ステージ上から最前列のお客さんに話しかけるように」とか、「アリーナの一番遠くにいるお客さんに届くように」とか、声の出し方について様々な注文を出させてもらいました。
ユニティちゃんならこうするだろうという気持ちになりきって、躍動感溢れる声を出してもらう必要があったからです。音素として採取するのはごく短い素片に過ぎませんので、素片だけを聞いてもどれだけ躍動感が盛りこまれているのかはわからないとは思います。でもそのひとつひとつの素片に魂が吹き込まれることによって、合成した際の結果が大きく変わってきますので、可能性があるアイデアについてはすべてトライさせてもらいました。
通常はマイクに向かって直立不動で声を出してもらいますが、角元さんには身振り手振りのアクション付きで、ときには録音ブースの中でぴょんぴょん飛び跳ねたりしながら、ステージ上のユニティちゃんになりきって演じてもらいました。動いたり飛び跳ねたりすると足音やノイズが入ってしまうので収録の際にはタブーですけれど(笑)
台本とは別にセリフをしゃべってもらったりカラオケを何曲か歌ってもらったりして、その収録データからも声の素片を採集していって歌声ライブラリに追加していった点も、他の歌声ライブラリには無い特徴と言えます。これは大きな違いですね。

角元他の人はやっていないんですか

馬場やってないんですよ(笑) ただユニティちゃんらしさを演出していく上で、セリフ回しや話し方に含まれている特徴もできるだけ盛り込んでいきたいと思いましたので、かなり無理なお願いもさせてもらいながら追加していく形で制作を進めました。

- そういったことを収録時にやることで、どの辺が変わるんでしょうか。

馬場歌声を合成するソフトウェアなので、「できるだけ歌声に近い声を出してください」と、みなさんに共通してお願いするのですが、台本を読んでいるうちにどうしても話し声に近くなっていきがちなんです。
しかし実際に歌ってもらったり、あるいは普通の人が言わないようなテンションや抑揚で声を出してもらうことで、声のトーン変化や強弱の違い、あるいはピッチ変化であったり、声に含まれる特徴や癖のような部分を、より多く盛り込んでいくことができるんです。
V3までの歌声ライブラリは、どのような楽曲にもフィットしやすく、またコントロールパラメーターを使った表情付けがしやすいよう、比較的フラットな出力音を目指して制作されていました。しかし現行のVOCALOID4シリーズの歌声ライブラリは、できるだけ中の人の特徴を生かしながら「個性」を出すように心がけていますので、そういった部分の変化が重要な鍵となるわけです。

吉田ユニティちゃんの歌で時々すごく生々しく聞こえるときがあるんです。そういったところで今のような試みがいきているのかなと感じますね。

1234