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VOCALOID、歌声ライブラリを今収録する意義

- 声優や歌手にとってVOCALOIDとはいったいどういうものなのか、そしてなぜ、今VOCALOIDの歌声ライブラリを録るべきなのか……。

馬場この10数年を振り返ってみると、我々制作側のスキルやノウハウが足りずに、中の人の魅力を再現できていなかった部分がたくさんあったと思います。ですが、毎回新たなチャレンジを繰り返しながら、特徴や魅力的な要素を活かす方策について研究してきた結果、再現性をかなりのレベルまで高められるようになりました。「平坦で味気ないもの」のようにVOCALOIDを捕え、それを理由にいままで躊躇していた人たちには、「もうそのような心配はご無用ですからぜひ来てください」とお伝えしたいです。
もうひとつはVOCALOIDの認知度の違いですね。ある意味マニアックでニッチな技術としてスタートしたVOCALOIDですが、ニコニコ動画等への投稿や初音ミクのブレイクで世の中的にも広く認知されるようになる中で、音楽をつくる人と絵を描く人とのコラボであったり、コミケへの広がりだったり、カウンターカルチャー的に発生したものが色々な人や物を巻き込みながらメインストリームとして市場形成されていったことで、VOCALOIDに対する感じ方も昔とは大きく変わったのではないかと思います。
間口が広くなったからと言って「どなたでもウェルカム」というわけにはいきませんが、我々の技術やVOCALOIDを取り巻く動向に興味を持って来てくださる方には、できるだけその気持ちに応えたいと思いますし、精一杯のクオリティでお返ししたいと思いますので、我こそはという方はどんどん手を挙げていただきたいですね。

- ヤマハという会社はVOCALOIDのシーンについて、鷹揚に構えている印象を受けます。それは、やはり、VOCALOIDを楽器として、ユーザーのツールとしてとらえているからなのでしょうか?

馬場VOCALOIDを取り巻く状況というのは、ユーザーやリスナーの方々に育てていただいたと言えます。開発側が想定していなかったところで利用され、ここまで広まってきたのです。そこから僕らも沢山のことを学ばせていただきましたし、これから先も学んでいくためには、常に柔軟で開いた姿勢でいなければいけないなと思っています。

石川根っこは歌っていうそのものの根源的な部分だと思うんです。歌が歌われるところにも硬軟ありますし。だからこそどんなシーンでも歌があっていいじゃないかというスタンスにつながっているのかもしれないですね。

ユニティちゃん歌声ライブラリのこれから

- ローンチがやっと終わったところでこういった質問をするのも何ですが、今回の歌声ライブラリ収録にあたって、「もう少しここはつめられたな」とか、「もう一回やるならここはさらに詰めてみたい」というようなところはありますか?

吉田制作自体はずっとこもってやっていたんですけれども、もっと曲を録っておけばよかったなっていうのはありましたね。UNITE IN THE SKYも普通のバージョンであったり、ライブのときのバージョンであったり、カラオケで歌ったときのバージョンだとかそういった声のバリエーションを録っておけばもっと広がりがあります。
それがうまくいくというのが我々としてもよくわかったので、これから歌声ライブラリを作るときは20曲、30曲くらい……と、練習してもらう必要があるかもしれませんね!

馬場そうですね。無制限の時間を与えられればトライしてみたいことはいくらでも挙げられますが、「期限内にひとつの歌声ライブラリを作ってください」という条件下では、今回はやるべきことをやりきれたかと思います。もちろん他の可能性はいろいろと考えられます。吉田が申しているようにバリエーションを増やすのもありでしょうし、パンクなユニティちゃんなんていうのも面白いですよね。ただ、躍動感を盛り込むという当初の目標はある程度クリアできたと思いますので、個人的には今回は達成感の方が強いです。
収録作業を振り返ってみて思うのは、この歌声ライブラリは角元さんじゃないと実現できなかったということです。声の出し方について注文した際に、「そんなのやりたくない」といわれたらそれまでじゃないですか。でも角元さんはどんな無理難題をいっても常に全力で要望に応えてくれました。ユニティちゃん歌声ライブラリが特別なものになった理由はそこに尽きると思います。

角元自分自身ではユニティちゃんの歌声ライブラリのために与えてあげられる素材を出しきれるほど自分がまだ声優として成長してないなと思ったので、「もっとこういうことできたら」というところがありますね。「もっともっと音域が出たらこういうことできただろうなー」とか……。

馬場今できることの中で精一杯やってくれるということがとても重要なんです。ベストなパフォーマンスをしてくれた角元さんには心から感謝していますよ。
先ほど、他の声優さんもどんどん手を挙げていただきたいといいましたけれども、「できる、できない」という意味ではかなり高いハードルがあります。長時間にわたる収録作業は肉体を酷使しますし、「いじめじゃないか!?」と思うほど、やってもやっても終わらない作業量を強いられますからね。めげずに最後までやりきれる根性、プロ意識、そういうものがないと中の人になるのは難しいと思います。

吉田今回のプロジェクトでは、「ユニティちゃんのVOCALOIDを作ろう」という目指すべきゴールが共有できていたので、すんなり進んでいきましたね。

石川先にキャラクターのイメージが共有できていたっていうのもあると思います。VOCALOIDはキャラクターが同時に作られることが多かったんですけれども、今回すでに存在するユニティちゃんというキャラクターをどんな形で切り取ってどう閉じ込めようかというのをみんなでディスカッションできたのがよかったのかなと。

角元そこにはヤマハの皆さんが大変気を使ってくださっていて……。スタジオの中はユニティちゃんまみれでした。目の前にポスター後ろにポスター譜面台にユニティちゃんみたいな。ユニティちゃんに囲まれて、ユニティちゃんを忘れないように。

収録風景

- それでは、最後に皆さんから今回のプロジェクトの感想をいただけますでしょうか。

角元私自身、自分の声でVOCALOIDの歌声ライブラリを作っていただけるなんて本当に一生あるかないかのことなのですごくありがたくて。いっぱいその歌声ライブラリを使った曲を聞けるというのもこれからすごく楽しみだし、私の声でこんなことができるんだっていう発見もしたいですし、こんなうまい歌を歌えるんだなっていうライバル意識にもつながるのでどんどん上手に歌を歌わせてほしいですね。そして様々な魅力に気づいてほしい。そして、ユニティちゃんのことにも興味を持ってほしいし、ちょっとでも私の本職のほうも気にしてくれたらうれしいです。
多くの発見が確実にあるVOCALOIDなので、ぜひぜひ楽しんでいただけるとありがたいです。

吉田声優や歌手の皆様に宣伝ですが、これからのVOCALOIDは、楽曲やPVといった音楽作品だけではなく、Unity上で制作されるゲームなどのアプリケーションでもどんどん使用されるようになってきます。到着駅の1つとしては考えられるVRの世界では、こっちの現実世界とは異なるリアルさが求められはずです。あっちの世界で歌声の分身を活動させて、いろんなメディアに展開して、驚くような体験を多くの方と一緒にできたらと思います。一緒にVOCALOIDを作って攻めていきませんか?よろしくお願いします。

馬場もともと音楽畑ではない人たちがUnity with VOCALOIDをどんなふうに使うのか興味津々です。既存の音楽にカテゴライズされない新しい音楽であったり、音楽とは関係ない使い方が生まれてきたりするかもしれませんよね。今まで見たことも聞いたこともない新しいものができてきたら、それはそれで新しいムーブメントに繋がる可能性もあるわけですし、そういった未知の可能性を考えるとほんとワクワクします。
一方で音楽を作る側の人たちには、その人にしか出来ないことを表現するためのツールとしてどんどん活用していただきたいです。曲づくりとはその人の気持ちや思いを形にすることですが、VOCALOIDが少しでもそのお手伝いをできるのであれば、開発提供する側としてもうれしい限りです。

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