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歌声ライブラリを使いこなすためのキーワード
「いじればいじるほど」

- それでは、歌声ライブラリを使いこなすためには、あるいはこういったところに気を遣うとそのキャラクターを活かすことができるというのはありますか。

馬場「いじればいじるほど隠れている部分が見えてくる」というのがありますね。特徴や癖を盛り込んでいるといっても、VOCALOIDの合成エンジンの仕組み上、合成されて出てくる音はある程度フラットになって出力されます。ところが、そこにもともとあったダイナミックスカーブやピッチカーブを書き入れることで、ベタ打ちの状態のときには表れない声に含まれている要素が見えてくるわけです。
ユニティちゃんのイメージとして最初に思ったのは、単にかわいくて元気で明るい女の子というだけではなくて、ちょっと生意気だったり、あるいは普段人には見せない顔を持っていたりという裏側の魅力も入れ込んで表現したいと思っていたわけで……そういえば収録のときに無理なお願いを出させてもらったのも、角元さんをむっとさせてリアルにそういう声を出してもらおうとかそういう思惑もあったりしました。もし気を悪くされていたらこの場をお借りして謝罪いたします。

角元大丈夫です!

馬場安心しました(笑)
さておき、ユーザーの方には、とにかくユニティちゃんをいじり倒してみてくださいとお伝えしたいです。いじればいじるほど、何かしらの形で応えてくれるよう仕掛けがしてありますので。

- VOCALOIDの歴史の中で、開発者として「ここまで行くだろう」と想定されている使い方っていうのはいろいろとあると思いますが、ご自身が「こういうところまできたか」と驚かれたものは今までにありましたか?

吉田開発の当初は「プロが仮歌で使ってくれるツールであればいいかな」という思いで作ったんですが、だんだん初音ミクが出てきたころから雰囲気が変わってきて、それでCDがランキング1位になったり、2000年のころには全然予想していなかったことが起きてきて。さらにいま、Unity with VOCALOIDとして歌声ライブラリ込みのSDKをリリースするなんて2007年ごろには予想できなかったことだと思います。
楽曲制作者向けにも満足いただける非常にポテンシャルの高い歌声ライブラリを作ることができたということと、簡単にVOCALOIDを扱えるSDKを用意することができた、というのが今回のプロジェクトの大きな意義ですね。

- 今回のユニティ・テクノロジーズ・ジャパンとのコラボレーションにあたって、Unity側のエンジニアの方がVOCALOIDに、VOCALOIDをやっている方たちが今度はゲームエンジンに、というある意味大きな橋がかかった印象があります。これから2年、3年といった長い期間で見ていくと、その橋を渡ってものすごいものができるのかなと。

馬場いままで音楽を作る人の手に渡っていたものがプログラマーさんの手に渡ることで、そこから何が生まれてくるのかという点に関しては、想像することが難しかったりしますが、両者のコラボレーションであったり、あるいは僕らが想像しないようなまったく新しい使い方をする人達が出現したりして、新たな波として広がっていくことにはとても期待しています。どんなものが生まれるのか今から本当に楽しみです。

石川歌ってたぶん声だけではできてないんですよね。そのときの歌手の表情だとか……。デュエットするにしてもアイコンタクトとかがすごく大きいような気がしています。Unityだとトータルでその歌の表現を超えたところまで作り出せるというところでもう一段階、深い表現ができるのかなと。

小林ゲームを作っている側から言いますと、歌に入っている声というのは言葉だけではないんですよ。音なんだけど感情を含んでいるという特殊なもので。言葉に頼らなくても感情が十分に伝わる表現だとかそういうのが可能なんです。
もしかしたら何千年経ったあとでVOCALOIDの歌声ライブラリデータだけが残っている可能性もあるわけですよ。そのときにそれを聞いた人が何を思うのかなと、そういうのを表現できたら面白いかなと。

声優にとってのVOCALOIDとは

- 声優の角元さんにとって、VOCALOIDはいったいどんな存在なのでしょうか?

角元これからユニティちゃんを動かすプログラマーの人たちがVOCALOIDでセリフをしゃべらせるようになっちゃったら、私の仕事もいくつかとられてしまったかも……みたいな気持ちもあったりはします。でも、そのほうがしゃべらせたいワードが出てくるんだとは思うんですけれども。
VOCALOIDにしゃべらせたセリフ、VOCALOIDをトーク用の素材として使用するという使い方は、いままでもしていらっしゃると思うんですけれども、それがより自然に聞こえるようになっているのが今回のユニティちゃんということで、そこに大分ライバル意識はありつつ、VOCALOIDには絶対できないことも私たち声優にはできるだろうっていうのもあって。負けないぞっていう気持ちが強いですね。

- 声優として、VOCALOIDになるっていう喜びと、自分の声の場所が奪われるかもしれないという恐れと……。

角元私が何十年もやっているベテランさんであれば、ある程度はあったのかもしれないんですけれど、私自身、新人だということでその辺のこだわりがないのと……。これは角元明日香ロイドではないので。
あくまでユニティちゃんがVOCALOIDというのが念頭にあったので、抵抗などは全くなかったですね。

小林生声のユニティちゃんの価値がむしろ高まるんじゃないか、というのもあります。ワンショットのよさっていうのがあるじゃないですか。その瞬間を切り取ったその価値が改めてわかるというか、そういった意味では面白いんですよね。

- VOCALOIDを歌手として、あるいは楽器として使っている人たちもいる中で、角元さんにとってのVOCALOIDはどんな位置づけになるんでしょうか。

角元私は単純にオタクみたいなところがあるのですが、みなさんそれぞれVOCALOIDのビジュアルに対して愛着をもっていらっしゃるんじゃないかと思います。
直接VOCALOIDを触っている方も触っていない方もいらっしゃると思うんですけれども、こうやってどんどん人間に近づいているところを見るとすごく魅力的ですね。単純に仕事としてのライバルとして見ているわけではなく、とても魅力的で個性的なものがどんどん生まれているので、「これからどれだけ増えていくのかな、どんな新しい子が生まれてどんな変化がついていくのかな」というのが1人のファンとして楽しみです。

- 次期VOCALOIDにバージョンアップしたり、歌声ライブラリとして取り扱うべき音素が増えたりしたときに改めて収録し直す可能性はありますか?

吉田もし、そういうチャンスをいただけるのであればもう一度全部録り直したいですね。
今のユニティちゃんの声が2015年の角元さんの声を元にしていますから、2020年にまた作るとなったときには、そのときの角元さんの声でやるのが自然かなと思います。そのころには我々の技術も向上しているので……。もしかしたら録音が大変になるかもしれませんが、よりリアルなものを再現したい。

- 角元さんが、実際にVOCALOIDを一緒に作ったところで、見えてきたものはありましたか?

角元私自身のつたなさが大分浮き彫りになったなっていうのもありつつ……。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの皆さんが私を選んでくださった時点で、私の成長=ユニティちゃんの成長という風にきっと考えてくれていたんだろうなというのがあったので、きっと2020年版のユニティちゃん歌声ライブラリを録るときにはもっともっとVOCALOIDにできることが増えているでしょう。もちろん、VOCALOIDにしかできないこともあるし、人間にしかできないこともあるので。それぞれの畑で頑張ればそれがきっと刺激になることもあるでしょうし。そういう意味で、これからが本当に楽しみです。

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