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今後は歌声ライブラリの拡充、多言語展開を視野に

- 今後のUnity with VOCALOIDの展開はどのようにお考えでしょうか?

山本直近としてはAndroid対応を進めて提供するのが一番の課題です。SDK自体の話ではないのですが、歌声ライブラリの拡充も重要視しています。ヤマハの歌声ライブラリもそうですが、パートナーさんの歌声ライブラリも増やしていければと思っています。
あわせて、Unity向けに新しく歌声ライブラリを作りたいという新規の案件にも期待しています。

石川歌声ライブラリの、さらにその先の多言語対応ですが、VOCALOIDはすでに日・英・中・韓・スペインの5か国語に対応できています。まずは今回、日本語からなのですが、他の言語をいつ、どうやって入れていこうかと。言語と発音の辞書だけじゃなくて、その言語の歌声ライブラリをどのように収録して揃えていくかというのもありますので、そこが次の課題になってくるかと思っています。
我々もまだ日本語でしか情報を出せていないので、海外のファンの方々がやきもきしているというか。情報に飢えている感じはありますね。「SDKって何?」というのもよくあったりします。

- そこも含めて今後多言語展開をしていく、というところですね。ちなみに、多言語化は大変な作業なのでしょうか。

石川いえ、基本的な仕組み、VOCALOIDそのものは言語によらず、変換された音素を実際の声で滑らかにつないでいく技術なので、辞書を入れ替えるだけです。実のところ。

- そういう意味では早いタイミングで出せそうですか?

石川そうですね。むしろ、そこにつける声をどうするか、そちらが難しいですね。

小林本当にリアルに使うとなると、日本語と英語で音素の数が違いますから。

石川英語は5倍ほど音素があります。既存の歌声ライブラリに歌わせるのか、ユニティちゃんに英語を歌ってもらうのかをいま考えています。

- 企画の話になってきますが、ユニティちゃんの英語版は考えていますか??

小林興味はあります。ただ、そこで難しいのが角元さんのネイティブのイメージが必要だということで。ユニティちゃんのイメージは壊したくない。でも、間違いなく日本人がやると違ってきます。ヤマハのCYBER DIVAという英語の歌声ライブラリがよくできていたので、おそらく英語の歌声ライブラリとしてはあのレベルでなくてはと思いますね。

- CYBER DIVAはネイティブの方に録っていただいたのでしょうか。

石川そうですね。ネイティブの方に声を提供していただいて。

小林もしやるとしたら、ネイティブの方を何人かオーディションさせていただいて、そこからユニティちゃんのイメージに近い声を選ぶことになる。だから、むしろ役者さんになっちゃいますね。当然、日本とアメリカでは声の役者さんの数が全然違いますから結構大変ですよ。

- 海外ですとVOCALOID契約はあまりメジャーではないでしょうから、そこも大変そうですね。

石川そもそも、VOCALOIDの歌声ライブラリの概念的なものから説明しないといけないですね。

- SDKの多国語展開の他には何かお考えですか?

山本VOCALOIDは単純に音と歌手を入力して、再生すれば歌ってくれますが、その歌い方にも表情付けがいろいろできまして、それでクオリティが大きく左右されるものになっています。その歌い方をコントロールするモデルのようなものを作成して、いろんな歌い方ができるようになってほしいと思います。
シンギングスタイルという歌い方のモデル定義をしたPC向けのプログラムがあって、これに通すと、元となった歌い方に近づけることができるようになります。そういったものをUnityでできるようにしたいと考えています。

Unity with VOCALOIDが生み出す新しいコンテンツ

- Unity with VOCALOIDによって、ゲームとより密接した、今までにないVOCALOIDの使われ方が出てくると思うのですが、どんな風に使ったら面白いと思われますか?

松澤普通は音ゲーのような使い方が最初にくると思うのですが、育成系とかも面白いですよね。最初はうまくない歌い方だけど、頑張っていけばきちんと歌ってくれるようになるとか。そういうインタラクティブ性を活かしたものもいいですね。

山本歌にはキャラクターがいて、そこに感情があるものなので、やはりそこの部分を体験者自身の感情とリンクさせて歌い方が変わるとか、VRと組み合わせるとか。そういったことができるとすごく面白い、世界が広がると思います。

- バーチャルライブやメディアアートのような尖ったものが出てくるのかもしれません。

小林メディアアートに関してはいろいろな組み合わせ方や夢がありますね。C89でTLFスピーカー(※薄くて軽くて曲げられる、ポスターのようなスピーカー)をお借りしたのですが、ああいったものと組み合わせると面白い体験ができると思いました。

石川空間が作れますからね。

小林20個を同時に立てることができるのでバーチャルアイドルのコンサートも本気でやればできるわけですよ。

石川スマート家電にVOCALOIDがのっていくと、夜な夜な冷蔵庫と電子レンジがハモっていたりする面白い世界ができるかもしれません。テレビの歌番組を流していると、それに合わせてハモる冷蔵庫とかが作れるわけですよ。

- いままでに、VOCALOIDそのものを広めるユーザー参加イベント、あるいはレクチャーをするイベントやセミナーはどんなものを実施されてきましたか?

石川音楽制作という意味ではいわゆるDAW(Digital Audio Workstation)と呼ばれている制作ツールとVOCALOIDを組み合わせて歌ものを作るセミナーをやらせていただいたり、専門学校さんに入れていただいたりはありますね。そこがいよいよインタラクティブとかゲームエンジンとかが入ってきて、新しい領域になりますので、どういう形でどんな方に届けていったらいいのかが次の課題ですね。

- ゲーム専門学校とかゲーム開発寄りなのか、それとも音楽側なのか、ですね。

小林それは非常に難しい問いですけども、おそらく今後のゲーム開発者はいろいろなことを知らなくてはいけないですね。ただ、間違いなく興味のある方はやっていますからね。

- 企画されているユーザー参加イベントはありますか?

石川まだ時期は決まっていませんが、Unity 道場の中でターゲットを決めさせていただいて、まさに今の話ですが、音楽制作とゲーム・アプリ開発双方のクリエーターさんが来られるようなセミナーをぜひやらせていただきたいと思っています。

小林Unity 道場自体は、単純にUnityの勉強会だけではなくて、Unityに関わるゲーム開発全体の話を広く取り上げる予定があります。例えば、Unity with VOCALOIDの使い方はもちろん、そもそもVOCALOIDを使ってどう作曲するか、といった話とか。そんな事例の話をしても全然いいと思っています。重要なところだと思いますので、今後広げていきたいですね。

Unity with VOCALOIDに触れる人たちへ

- Unity with VOCALOIDをこれから触ってみようと思っている人たちに伝えておきたいメッセージがあればお願いします。

石川いろんな歌を歌わせることによって、人間はその歌を通じてどんなコミュニケーションを取っているのか、歌がどう感情に働きかけているとか、受け手はどう受け止めているのかとか、歌を中心としたコミュニケーションの仕組みが明らかになるかもしれません。それは我々VOCALOIDチームにとっての究極の目的のような気がしています。なぜ我々は歌を歌うのかとか、歌を聴くと共感ができるのか、そのメカニズムが明らかになるかもしれないんです。そこに向かう第一歩として、インタラクティブという歌うエンジンがUnityにくっついたというのが偉大な一歩になったらいいなと。

松澤ゲームを作っているエンジニアの方たちに、音楽制作にも興味を持っていただけると嬉しいです。道筋としては、エンジニアの方がプログラミングをしてアプリケーションを作るのと、音楽制作ソフトで打ち込んで音の出力を得る作業は似ていると思うんですね。音楽の制作は多くのエンジニアにとって、遠い世界、難しいものと感じられると思うのですが、これを機に興味を持っていただいて何かを生み出していただけると面白いと思います。

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