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収録と並行して進んだライセンス条項の見直し

- では、プロジェクトの流れを時系列で追いかけますと……。

石川2015年6月に、最初のバージョンをご覧いただいて、「やりましょう」という話になって、7月にはもうパイロット版の声を録りはじめていました。

小林目標として「8月の末に発表したい」というのがあったので、それに間に合わせるように逆算すると7月にはスタートしていないとダメだったんです。

石川8月のCEDECにあわせてヤマハとユニティ・テクノロジーズ・ジャパンとの共同プレスリリースを出して、そこで発表をしたい、Candy Rock Starでユニティちゃんを歌わせたい。そこで、大急ぎで7月の中旬くらいに角元さんにスタジオに入っていただいて、最初のテスト収録をしました。

- そこから改めて本収録を?

石川そうですね。改めて、ディレクションというか企画会議を実施して。どんな方向性の声にまとめていくか、先ほどもあったキャラクターに関する心配事を深くディスカッションして、どういう形でVOCALOIDデビューしてもらうべきかという議論をしながら収録をして作りこんでいきました。

- ユニティちゃんにはもともとライセンス条項があります。これは今回のプロジェクトにとって、どういった意味を持ちましたか?

石川ユニティちゃんはクリエーターにとっての象徴的なアイコンでもあるので、クリエーターさんにとって使いやすい、クリエーターさんがユニティちゃんを歌わせてみたいと思ってくれなければダメだと考えていました。まずは『ユニティちゃんライセンス』を勉強して、なるべくそれに準ずる形でやりたいと思っていて。
今回のプロジェクトは創造のためのプラットフォームなので、既存のものではダメだと思っていたんですよ。そこに『ユニティちゃんライセンス』というものがあって、そこに乗せていただくことで、同じくクリエーターさんに認知していただけるのであれば、ちょっと頑張ってそこに乗せるべきであろうという方向性で、自然にそちらに行きましたね。

- ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンとしては、ユニティちゃんがVOCALOIDになるというのはある程度想定はされていたという話がありました。ですが、話が具体化するにあたって、どういったライセンスの見直しをされたのでしょうか。

小林あらためてキャラクターの部分と純粋なデジタルな部分はどう違うのかというところをわける必要があり、そこのところを考えました。今回の件の中で言うならば、SDKの純粋なプログラムの部分は、本来アセットストアEULA下で配布されるソリューション的な部分だろうと思うんですよ。ただし、その中に含まれるライブラリという部分には各キャラクターを演じる声優さんやディレクターさんの演出が入っているんです。これはキャラクター的な部分であろうと。
そういうところがすごく重要で。そこをどう分けるべきか、どう使うべきかというのを改めてもう一度考えた上で……さらに重要だったのは、これは僕らだけで決められないことでもある、という理解です。
それはなぜかというと、すでに元の『ユニティちゃんライセンス』がある程度一般的に認知されているからです。僕たち側でひっそりと『ユニティちゃんライセンス』を改訂してもいいんですけど、それが知られないようだと意味がないわけです。今回の改訂については、弁護士にいろいろと相談をしながら、より使いやすいように変更をしていきました。

- ヤマハ側からは、改訂にあたって、変更や調整の希望をだされましたか?

石川お願いという形ではなかったんですが、先ほどの心配事の中のひとつに、角元さん演じるユニティちゃん、VOCALOIDのユニティちゃんが同時に存在しえなくてはいけないと我々も思うので、「そこに対するプロットはとても大事ですよね」というお話はさせていただいた記憶があります。そこはもう当然ながら京野さんもおわかりで、プロット作成の段階から、コミュニケーションをしっかりとることができました。
配布に関するライセンスのところでは、当初我々は一般的な世の中の考え方でヤマハのSDKとユニティちゃんの声は別々のライセンスで配布されなくちゃいけないと思っていた……思い込んでいたんですね。そこをユニティ・テクノロジーズ・ジャパン側にお話したら「クリエーターのためには一緒になっていたほうがいいんだから、一緒に配れる方法を考えましょう」とおっしゃっていただいて。

- このプロジェクトは、歌声ライブラリを含むSDKが無償公開されています。そして、『ユニティちゃんライセンス』のもとに個別に許諾、契約は不要です。そうなると、お互いどこで儲けるんだ、という議論がでてくるかと思います。そこについては、石川さんはどうお考えですか?

石川ひとつはボトムアップのムーブメントというところですよね。一般のクリエーターの方を巻き込んで、新しいことに挑戦したい、しかもヤマハでは全容が見えていない、何が起こるかわからないようなことを仕掛けたいと思っていたので、広く使っていただく必要があるだろうというところを考えました。
また、無償という言葉が独り歩きしてしまうと、これまでのビジネスとの関係みたいなところについて、社内から心配が出てきますので、「ユニティちゃんが背負っている宿命といいますか、背負っているコミュニティ、その範囲で使ってもらう分には無償にしますよ」という形にしました。「既存のVOCALOIDのライブラリを含めて我々のプラットフォームとして使う場合はビジネススキームを作ります」というところで、わりと長い説明をあちこちでした記憶はあります。

3Dモデル、ボイス、VOCALOIDが加わった
ユニティちゃんのこれから

- ユニティちゃんには3Dモデルがあり、角元さんの声というものがあり、さまざまなグッズ展開があり、さらに今回VOCALOIDも追加されました。これからのユニティちゃんは、いったいどこに向かおうとしているのでしょうか。

小林我々が話をしているところでは、「もうそろそろかたまったひとつの世界観、ひとつのパッケージ、そういうものが必要ではないか」というものがあります。そのパッケージを作る仕込みとして、ドラマCDを作っているんですが、そういうのがある一定数かたまってくると、火が付く流れが出てくるので、そこに少しずつ流していくというのを進めている最中です。いずれにしても、キャラクターものというのはこちら側が仕掛けて上手くいくというものでもないので、「結構長いスパンでやろうかな」くらいの感じでやっていました。ただ、現時点ではこちらの想定の1~2年早いくらいで回っているなというのがありますので、むしろいまは丁寧に作っていくことを第一に考えています。

- ヤマハとしては、ユニティちゃんの世界と、VOCALOIDの技術が出会ったことでどのようなことが起きると思われますか?

石川楽曲制作以上に、「こんな風に歌って欲しい」という願望というか妄想というか、そこが加速していってほしいなと思っていて、歌ってもらえる存在としてどんなことを望んでいるんだろうっていうのを……ふんわりしていますけれども、アプリケーションの形でインタラクティブな要素として、見えてきたらヤマハとしてはすごく楽しいなと。
それから、クリエーターさんのテリトリーとクロスオーバーしていく期待もあって。例えばVOCALOIDのPさんと呼ばれている方々の知見ですよね。「このパラメーターをこうやるとこんな風に歌うんだよ」っていう知見があって、それがゲームやアプリのクリエーターさんと結びつくことで、「このシーンはこんな風に歌ってほしい」というところに、うまく答えがくっつくといいなと思っているんですよ。そこのクロスオーバーは我々も積極的に支援していかなくてはいけないと思っています。

- いままで、 VOCALOIDという楽器に触れたことがなかった人たちに対して、楽器を見せて、プレイも見せて聴かせて、「さぁ、あなたならどう使う?」という状態ですね。

石川そうですね。我々としても、「歌わせたい」という漠然としたものをデータとして形にしていけるようなミドルウェアに相当するもの、そこをヤマハとしても作っていかなくてはいけないですし、もしかしたら、フレームワークだけ作っておいて、中身は皆さんに作っていただくのがいいのかもしれない。それにしても、その仕組みづくりはいるだろうなと。
細かい話ですけど、現状、VOCALOIDの制御シーケンスはUnityから全部触れるところまで作ってあるのですが、それってあまりに乱暴というか……「全部見えるんだけど、どこをどうしたら、どんな風に歌うの?」っていうところの知見はまだそこにないんですね。知見を蓄積していけるようなフレームワークは作らなきゃなぁと思っています。

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